浄土宗神奈川教区テレホン法話 第1003話

小田原組 報身寺 荒井 呉仁

6月になりまして、4月から新しい環境に移られた方も2ケ月が過ぎ少しは気持ちに余裕が出てくる頃ではないでしょうか。私たちはよく「喉元過ぎれば熱さ忘れる」のことわざではありませんが、どんなに苦しいこと、辛いことでもそれが過ぎ去ってしまうと人は何事もなかったかのように忘れてしまうものであります。辛いことが多い世の中、忘れることができるからこそ、人は生きていけるということがありますので、それ自体が悪いことではありませんが、忘れてはならない事の戒めで「初心忘るべからず」という言葉があります。この言葉は室町時代の能役者である世阿弥の言葉で能を極める教えであります。世阿弥はその中で3つの初心をあげています。
1つめが是非の初心忘るべからず
2つめが時々の初心忘るべからず
3つめが老後の初心忘るべからず
というものです。
最初の是非の初心とは若い時は未熟で失敗も多いが上手くいかなくても、それぞれの時の精一杯の気持ちを忘れないようにということです。
次の時々の初心とは中年〜老年になるまでにその時、その時の上達段階において、初心を忘れずにと教えています。
そして最後の老後の初心とは年老いても老人には老人にふさわしい能が舞えるようにということです。
 世阿弥の言う初心忘るべからずとは決して物事の始める時の気持ち、事だけでなく毎日、毎日その時の初心を大切にすることを教えているのです。
 今世間で起こっている食の偽装事件、企業の不祥事など最初からそのような思いがあったわけではないでしょう。そこには立派な夢、志があって始められたのではないでしょうか。それが年月とともにその目標を失い、いつしか後戻りできないところまで行ってしまったのです。現在の自分を知るためにも、出発点である初心を思い出し今の自分は間違っていないか、常に再確認する必要があるのではないでしょうか。
                    
次回は6月11日にお話がかわります。