浄土宗神奈川教区テレホン法話 第1010話

小田原組 春光院 石川 邦雄

 浄土宗神奈川教区テレホン法話第1010話。お盆の季節を迎えました。今日は「故郷」という言葉を介して、「極楽世界」についてお話したいと思います。
 『浦島太郎』の物語を思い起こしてください。たすけた亀に連れられて龍宮城に行き、乙姫さまから大変なもてなしを受ける。ご馳走の数々、鯛や平目の舞い踊りに時のたつのも忘れてしまう。ふと我にかえり、お土産に玉手箱をもらい、もとの浜辺に戻ってみると、道行く人々は見覚えのない人ばかり。あたりの様子も、すっかり変わっている。聞けば、百年も時は過ぎ去っている。思わず玉手箱を開けると、中から煙が立ちのぼり、浦島太郎は見る見るうちに皺がより、白髪の翁になってしまった……というお話である。
 私たちの人生も、忙しく日々を過ごしているちに、気がつけば、いつしか老境に近づいている。そして誰もが過去を振り返り、故郷や幼い頃のことを無性に懐かしく思うようになる。でも浦島太郎の物語のように、生まれ育った故郷を実際に訪ねてみても、人も、家も、町のたたずまいもおおむ概ね変わってしまっている。そうです。昔のままの故郷など、あるはずがないのです。私たちにとって、真の故郷とは、過去ではなく未来に求めるべきものなのです。
 2500年昔、お釈迦さまは、遥か西の彼方に阿弥陀如来まします極楽世界があることをさとられました。極楽は、美しい花が咲き乱れ、鳥が歌い、風が心地よく吹きわたっている素晴らしい世界で、阿弥陀如来の救いを信じて心からお念仏をお称えすると、誰もがこの尊い安らぎの世界に迎えていただけるのです。しかも、今は亡き父や母や友や、先立った人々が共に再会することができる、と経典に説かれています。
 真の故郷。愛する人、お世話になった人、懐かしい人々と共にやすらげる世界。極楽浄土という遥か西の彼方に、いつの日か私たちも迎えていただきたいものです。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。
 次回は、8月21日にお話がかわります。