浄土宗神奈川教区テレホン法話 第914話

 師走も中旬になりました。お元気でしょうか。さて、前回と同じく心温まる実話を紹介します。
 私の弟弟子仮にKとします、そのKが、あるおばあさんのところに7月のお盆のお経をあげに行きました。まだ自然の残っている地域でしたが、だんだん住宅が増え始めたところでした。
 そのお宅の前に小さな沼がありました。そこには、水が張っていてカルガモの親子が棲みついていました。カルガモは子育てをしているのです。おばあさんはカルガモ親子の様子を見ることが楽しみでありました。
 その年の夏は、雨の少ない大変暑い日が続いていました。お経が終わりカルガモの話題になりました。
 このところ雨が降らないので水がひどく減ってしまって気が気でないというのです。そこで、何とか水をと役所に申し出たそうです。カルガモの為に給水は出来ませんが答えでした。
 今度は、消防署にかけあってみました。やはりだめでした。そこで、なんとおばあさんは、長いホースで水道の水をその沼に流したのです。溜まっては減り、溜まっては減りの繰り返しです。水道料金は、大変な額になりそうです。おばあさんは、そのことも心配ですが、子育て中のカルガモのことのほうが心配なのです。
 この話を聞いた弟子Kは、今日頂いたお布施を水道代にして下さいとおばあさんに渡しました。始は、固辞されたのですが、ついには、ありがとうございますと受け取られたのでした。
 後日おばあさんから師僧の和尚に電話がありました。「今日カルガモが巣立ちました。親鳥が家の上の空をくるりくるりとまわって飛び去って行きました。私には、さようならと挨拶を言っているようでした。水道代の足しにして下さいと言われそのようにいたしました。ありがとうございました」。和尚は驚きかつ感動しました。弟子Kは、水道代分を自分で出して師僧に報告していたのです。
 おばあさんも弟子Kも慈悲の心に満ち溢れた尊い布施の行だったのです。

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