浄土宗神奈川教区テレホン法話 第1163話

中郡組霊山寺 江島 尚俊

今回は、平塚市下島にございます霊山寺の住職・江島尚俊が担当させていただきます。 3月のお題は、想像力。人間がもつ豊かな能力について、2回に分けて話してみたいと思います。 突然ですが、問題です。あなた一人がこの世に生まれてくるために父と母は何人必要でしょうか?いかがでしょうか? 昨今は、代理母や試験管ベビーという事象も見聞きするようになりましたが、基本的には、父一人、母一人が必要、つまり二人の親がいてくれてあなたは生まれてくることになります。この理屈で参りますと、父が生まれてくるためには父方の両親が必要、母が生まれてくるためには母方の両親が必要となります。つまり、あなたが生まれてくるためには、父方の祖父母、母方の祖父母の合計四人が必要となります。このようにあなたから一世代遡ると二人、二世代遡ると四人というように、世代を遡るごとに、どんどん二を掛けていく人間が必要となってきます。むろん、あなたが生まれてくるために、です。十世代さかのぼると、二の十乗のご先祖様がいなければあなたは決して存在できなかった。二の十乗といえば千二十四名。十世代でだいたい250年前。約500年前の二十世代まで遡ると、二の二十乗。つまり、1,048,576人の人間が一人でも欠けていたらあなたは生まれなかったことになってしまう。さらに、三十世代遡ると、10億人を超えてしまいます。私の命は私のものとついつい考えてしまう昨今の風潮ですが、決してそんなことは無いことを改めて考えてみていただきたいと願う次第です。 いじめや貧しさ、絶望や孤立、人間社会に存在する苦しみの数を、数えきることは決してできません。しかし、我が生命が、多くの命を経由していま、ここに存在していることは、厳然たる事実であり、忘れてはならないことなのです。このように自分の命を、自分以外の命のつながりとして考えると、我が生命を大事に生きることの大切さを実感するきっかけとなるのではないでしょうか。 今回は、自分の命が決して自分だけのものではないことを想像していただくべく、世代をさかのぼって頂きました。次回は、この想像力が私達にとってどれだけ豊かな意味を与えてくれるかということを、落語の実演を交えてお話させて致します。 南無阿弥陀仏、阿弥陀仏。 次回は三月の中頃にお話がかわります。