浄土宗神奈川教区テレホン法話 第812話

 寒い日が続きます。私の生まれ育ったお寺は葉山の海辺です。冬の朝に月参りに伺いますと、皆さん仏間を暖かくして丁寧にむかえて下さいます。 
 外は大変寒いですからスクーターに乗ると「ソレッ」という感じで突っ走ります。地元のお檀家さんの家々を通り抜け海が見えると皆さんに見守られているようで安心してきます。
 それでもとびきり寒い朝にはふんぎりが必要です。スクーターでの寒さに我慢できなくなると、好きな歌手の歌でも唄って半ば「ヤケクソ」です。途中で土地の方にお会いしますから、配達途中の商店の皆さんや、海の様子を見ている漁師さん達とチラッと会釈します。今はそれだけで寒さも出掛けのお寺のゴタゴタも全て解決したような気になってスイスイおまいりしてしまいます。増して伺った先のお檀家さんは思いやりを持って大切にむかえて下さいますからだんだんのってきます。知らず知らずに無事にお勤めさせて頂き、皆様の心遣いを感じます。
 ただ最初の頃は寒さ等でカッカすることもしばしばで、土地の皆さんの仕事や状況を察しながら互いに気持ち良く生活しようという知恵や優しさに私は気づこうとしません。しかし、スレ違う酒屋さんや豆腐屋さんは何十年も前から冬の寒い朝に仕事をしておられますから、こちらの気持ちはとっくにバレています。「寒いなあ、でも仕事だあ、しょうがないやっちゃおう。」それとも「あの若僧半ばヤケで鼻歌歌ってらあ、寒いもんなあ。」といった感じでしょうか。その上で「あお、あの若いのやってんなあ」と大目に見て下さいます。お寺と土地の皆さんとの代々のお付き合いに支えられている感じがします。
 お正月のテレビで寅さんの映画をやっていましたが、或る時、満男は好きな子ができて、急に寅さんの恋を察する様になり、つぶやくシーンがあります。「僕はもう、おじさんのいつものふられっ振りを笑えなくなりました。何だか急に尊敬や愛着を感じるのです。」といったセリフだったと思います。
 私も満男と同じ様に土地の皆さんの知恵や心遣いに気付いて少しは仲間入りさせて頂いているかなと感じています。
 何も判らない間に何代ものお檀家さんとお念仏を通じたお付き合いで、今日も一生懸命働けます。