浄土宗神奈川教区テレホン法話 第899話
境内の樹々は陽の光を受け輝き、本堂に吹き渡る風は、お浄土の微風とも感じられるなか、お念仏を申して居りますと今年新盆を迎えられるAさんと云う女性の顔が、お灯明のあかりに照らしだされるかの様に浮かんで参ります。
Aさんは努力に努力を重ね、税理士の資格を取られ、58才で旅立たれる約ひと月程前まで仕事一筋に打ち込まれ、数年前迄は今は亡きお母様と良くお寺に参られて居りました。
Aさんは癌の末期になる迄、自覚症状がなく、医師に診察を仰いだ時には、余命1年足らずの時でした。
身内が少ない上独身でもあり、Aさんは入院中の病院にお見舞いに来ていた3人の親友に、今すぐお寺へ言づけをお願いしたいと頼み、友人等は私の所に来られ、Aさんは生前の法名を授与して下さい、そして弔問の方達の足場の良い駅前の斎場をすでに決めている事、通夜、葬儀の精進料理も、ご自分で手配済みとの事。
医師には勤務先の事務所の仕事納めの、12月30日をめどに旅立たせてほしいので、点滴の量を調節して下さい。
安楽死を望みますと明言している事を、友人達は目にあふれる涙をぬぐいもせずに、私に伝えました。
病の床にあるにもかかわらずにAさんは澄んだ瞳で、誰にも代わってもらえない私の命、今を大切に生き、さわやかに旅立ちたいと語っていられますと、友人達は私に話して下さいました。
時あたかも仕事納めの前日にAさんは、永久の眠りにつかれました。
人間の生き方が百あれば、百の死に方もあります。
Aさんは毎年、児童福祉施設に寄附もされていた事が、葬儀の際のお悔やみの言葉で明かされました。
天女の様な微笑みをたたえたAさんのお別れの時の写真が、私のまぶたに、心に焼きついて居ります。