浄土宗神奈川教区テレホン法話 第948話
港北組 桂林寺 永田 英司
車で道を走っていて、救急車の音が聞こえてきたとき、みなさんは意識せずに道をあけていることと思います。私も特に深く考えることなく、当然のルールだと思って車を脇へよせています。しかしそんな当たり前の行為が、視点を変えるとまったく違う光景に見えることがあるのです。
いつでしたか、自分の叔父が急病になり、それで救急車を呼んだことがありました。私も初めて乗ったのですが、救急車のなかから見たその風景に、私は驚いてしまいました。
それまで前方をふさいでいたはずの車がすべて、いっせいに道を空けて、行き先をゆずってくれたのです。手前から順々に、やがてはるか先まで、それはまるで人を助けようとする気持ちが、以心伝心で伝わってゆくようでした。目の前に道が出来てゆくのを見て私はそのとき感動で、涙しそうにさえなりました。自分よりも他の人を優先してくれた行ないに、そして誰ひとり乱れることなく同じ行動を取ってくれたことに、胸が張り裂けるような思いがしたのです。
あたりまえのような小さな親切でも、その親切を受ける側にとっては、忘れられないほど大切なこともあります。小さな親切はその人の心のなかで、いつまでも消えることなく灯火となって輝き続けます。そして、このような小さな灯火を、隣にいる人にも移してあげたいと私は思います。とても簡単なことではないでしょうか。誰の心のなかにもその灯火があると思うだけで、世の中はいまより明るくみえてくることでしょう。
ふと気がついたら何かをする・・・・それだけでもいいのだと思います。ためらわずに、ほんの小さな行動に移すだけで、灯火の輪はひろがるのだと思います。