前回の法話で「一心十界」、人の心の中には地獄もあれば、極楽もあるということをお話ししました。どういう事だろうかと、思った方もいることでしょう。今回は「三尺箸の譬え」という説話でこのことをお話しいたします。
ある人が極楽と地獄を見学に行きました。まず地獄に行きましたが、地獄には閻魔様がいて、鬼や魑魅魍魎のたぐいがいると昔から言われているので、おそるおそるのぞいてみると、そこに住む人は私達と何一つ変わらない普通の人の姿でした。食事時も普通にやってきます。その食事を食べるには一つだけルールがあり、それは、三尺の箸を使わなければならないというものです。三尺とは箸の長い様を言ったもので、実際には2メートルにもなる長い箸です。食事時にごちそうが運ばれると、そこの住人は他人に取られてなるものかと、ごちそうめがけて我先に群がります。しかし、2メートルのお箸は長すぎて誰一人として自分の口に入れられません。しまいには他人がつまんだ食べ物を横取りしようとする者が現れ、「それは俺のごちそうだ!」とばかりにそこいら中でけんかが始まり、結局誰一人として食べることが出来なかったのです。
次に、極楽に行って見ますと、そこにいる住人も私達と同じ姿です。同じ様に、ごちそうが運ばれて来ました。極楽もやはり2メートルもある長いお箸で食べるのですが、ここからが違います。手前の人がごちそうを箸でつまむと向かいの人の口に運びます。「大変美味しゅうございます。あなたもいかがですか?」と、お互いに自分の箸で向かい相手の口にごちそうを運ぶのです。皆さんそうして食事を楽しみ満足し、お互いにありがとうございましたと言い合います。これを見るに姿は私達と同じなのに、地獄にもいれば、極楽にもいます。違うのは一人一人の心の中に協調の心があると、そこが極楽の世界になるという教えでございます。
「一心十界」人の心には、地獄もあれば、極楽もあります。心持ち一つで自分がいるところが地獄にもなれば極楽にもなるということです。なるべくならば、極楽の境地で協調して過ごせる心持ちでいたいものです。
次回は 10月21日にお話が変わります。