浄土宗神奈川教区テレホン法話 第1041話
小田原組 大見寺 木村敦英
今回は浄土宗の宗祖法然上人のお言葉を紹介したいと思います。
建永2年、西暦1207年、土佐への流罪が決まった、この時77歳の法然上人は、3月京の都を出発し、室津に到着しました。そこへ遊女たちを乗せた舟が一艘近づいてきました。遊女たちは法然上人のお姿を認めるとこう言いました。
「こちらに法然上人がおられると聞いてまかりこしました。世を渡る術は様々ありといいますのに、私たちはどのような罪で、今のこの境遇に身を落とすことになったのでしょう。この罪深き身は、どのようにすれば救われるのでしょう。」
この遊女たちの悲しい、しかし切実な問いかけに対して上人はこう答えています。
「もしあなたたちに、他の暮らしの術があるならば、すぐに今の仕事はおやめなさい。またもし他に手段はないが、世を捨てる覚悟があるというならば、今の仕事はおやめなさい。他に手段もないし、そのような求道の覚悟もないというならば、その時は今のままで、お念仏をお称えなさい。阿弥陀様は、あなたたちのような罪深い人のために、救いの誓いをたてたのですから。」
もちろん上人は、遊女たちがそれぞれやむをえない事情で遊女となっていることも、また他に暮らしの手段がないことも承知のうえで、このようにおっしゃったのでしょう。それでもその苦しみから救われたくて、都から流されてきたという上人に教えを乞いに来た彼女たちに対し、最初からお念仏をすすめるのではなく、まず他の道を示しておいでです。その後で、それが無理ならば今のままでよい、今のままでお念仏をお称えすればよいと諭していらっしゃいます。相手の苦境を理解したうえでの、今でいう癒しの効果まで相手に与えるような、誠に阿弥陀様の慈悲のお心そのもののような、優しさに満ちたお言葉だといえるのではないでしょうか。
来年平成23年は、この法然上人がお亡くなりになって800回忌の年に当たります。
次回7月1日にお話が変わります。