港南組 正應寺 石川 基樹
浄土宗神奈川教区テレホン法話第1152話、今回は前回に引き続き生きがいについてお話し致します。前回は私たちが普段考えている生きがいがいかに儚く脆いものなのかということについてお話し致しました。今回はいかに強く壊れない生きがいをもつかということについて考えてみたいと思います。強く壊れない生きがいを持つヒントとして、心理学者の井上勝也先生がおっしゃっていることがあります。井上先生は『堂々たる寝たきり』という本の中で最も壊れにくい生きがいは「思い出」だとおっしゃっています。この思い出というのは言い換えればここまで一生懸命生きてきたという強い心です。この強い心は例えどのような環境にあっても壊れることがありません。この例としてアウシュビッツ収容所に収監されたコルベ神父のお話があります。コルベ神父は自らある方の身代わりとなって他の囚人の方とともに餓死刑に処せられたのですが、人間が生きるための基本となる生理的な欲求や安全が満たされない中で、その人生が終わる時まで他の囚人の方を励まし続けていたと言われています。餓死刑に処せられるという言い表せない過酷な状況の中でコルベ神父が他の囚人を励まし続けていられた理由、それはコルベ神父の強い心、生きがいにあったのではないでしょうか。アウシュビッツの収容所のような状況ではありませんが、私達がこの世を去らなくてはならない時はいずれ訪れます。『無量寿経』、『観無量寿経』という経典には、この時必ず阿弥陀さまがお迎えに来て下さるということが説かれています。このお言葉はとても心強く、私達の大切にするものが失われ、自分の命が尽きようとしている時にでも強く心の支えになります。ですが、私達がこの世を去る間際にだけお念仏をお称えして阿弥陀さまをお慕いするのではなく、常日頃からお念仏をお称えしなければその確信も揺らいでしまうかもしれません。こうして考えてくると、強い心をもつためには、平凡ながら日々一生懸命生き、私たちを生かしてくださっている仏さまやご先祖さまへの感謝の心を忘れない生き方をすることこそが重要なのだと考えられるのではないでしょうか。
次回は、10月の始めにお話がかわります。