浄土宗神奈川教区テレホン法話 第913話
今年も最後の月師走となりました。忙しい、時間がないなどと言いながら日々を送る私たち。たまには何か心温まるお話をお届けしたいと思います。
テーマは、「いくら分け与えても減らない」です。登場する人は、私のまわりのいわゆる市井の人達でその出来事なのです。
ある年の6月のこと、娘の友達の大学生から電話があり、迷い犬を預かって欲しいというのです。
彼女の説明によるとこうなのです。
駅からの帰り道、首輪だけの人なつこい犬が付いて来るのでそのまま自宅まで連れ帰り、紐を着けて近所の人達に声をかけてみました。だれもその犬のことを知りません。
そこで、警察に相談にいくと二日間しか預かれないというのです。その後は、保健所に連絡をすることになり、その命はさらに一週間をたして九日間ということです。
自宅には、事情があって置くことも出来ません。その時、私のことを思い出し連絡をしてきたのです。「犬を預かって下さい。助けて欲しいんです。必ず飼い主か里親を探しますから一週間だけでいいですからお願いします」。預かることにしました。その晩は軒下に繋ぎ牛乳とドッグフードをやりましたが受け付けません。吠えもしません。警戒しているのかおとなしい犬でした。
すぐに、飼い主を探すことが始まりました。近所の人達も参加しての聞きまわりと里親探し。ゆっくりしてはいられません、命のことですから。一方、当の飼い主も、保健所に連絡。保健所は警察に情報提供。どちらも必死です。三日目にやっと判明したのです、犬がお寺にいることが。飼い主と犬との対面。人のときと同じです。犬は尻尾をちぎれんばかりにふり、飼い主は安堵の表情でした。よかった、よかった。ひとつの命が救われたのです。
この女子大生は、自分の時間と動物への愛情を犬に与えました。純粋に無償の行為で犬を救ったのでした。