浄土宗神奈川教区テレホン法話 第974話

港南組 金台寺 奥田 昭應

鳩摩羅什三蔵法師没後1600年の記念すべき年を迎えています。
西暦409年8月20日、羅什三蔵は長安でなくなります。享年60歳。
長く苦しい牢獄生活からようやく解放され、長安の都に温かく迎えられたとき、すでに52歳になっていました。
死期(しき)を悟ったとき彼は次のように述べています。
「私はよそ者ではあったけれども、どういう因縁か、経典の翻訳という仕事にたずさわり、三百余巻を翻訳してきました。身をやつした私が、晩年、死を迎える今日まで、何故、精を尽くして、ここまでこの仕事に命がけで邁進してこれたのか、どうか考えてみて下さい。そして、くれぐれもお釈迦さまの尊い御教えを、間違わないよう、正しく理解して下さい。願えることなら、数あるお経やその解説書類の中から、私が意図して選んで訳した経典を、是非広く多くの人々にひろめ、また後世に伝えるよう努力してください。私が翻訳し、伝えたところに誤りや嘘は一つもありません。その証として、私が死んだ後、身体は薪で焼かれたとしても、この舌だけは灰にならず形をとどめることでしょう。」という言葉を残しています。彼の予言通り、遺体は火葬されましたが、舌だけは灰にならなかったと、今も現地では語り継がれています。
現在多くの方に読まれる般若心経は玄奘三蔵訳ではありますが、あの有名な「色即是空 空即是色」の言葉も、羅什三蔵の見事な翻訳の一つで、それまで難解であった大乗の「空」という概念の真髄を、わずか八文字であらわしたことは、仏教を深く理解し、空の心境を悟った彼を除いて他には誰も成し得ませんでした。わが宗浄土宗の拠り所「阿弥陀経」も羅什三蔵の翻訳で、阿弥陀さまの理想世界を「極楽」と表現したのは、羅什三蔵がこれまで出会ってきた人々の迷いや苦しみや泣き叫びを我が事のように感じとり、お釈迦様の教えを何としてもより多くの人々に伝え残さなければという、強い意志が重なって、世の人々の真なる平和と安全を願った言葉から生まれたということを私達は知らなければいけません。
羅什三蔵亡き後、彼が願ったとおり、彼が訳した経典類は広く東アジア全域に伝播し、日本においてもあらゆる宗派の根本経典として、今に至っても多くの人々を救済し続けています。


次回は8月21日にお話が変わります。